「ファッションは生き様」Amazon Fashion Week Tokyoオフィシャルアンバサダー ハリー杉山さんインタビュー

世界のファッション界をリードする英国をルーツに持ち、ご本人も名だたるファッションショーのモデルを務めるなど、芸能界随一のファッショニスタとして知られるハリー杉山さん。

今期で三度目のアンバサダーに就任したAmazonFWT(東京コレクション)の魅力、そして日本のファッションの持つ力について、
東京ファッションシーンを熟知するストリートフォトグラファー小儀昌弘さんを特別インタビュアーに招き、対談形式によるトークセッションを敢行した。

―まずはこれまでのショーをご覧になって今期注目のブランド、あるいは明日以降で気になっているブランドを教えて下さい。―

分かりやすいところで言えば、やはり「ディテールこそ神様」というコンセプトを追及し続けているアンリアレイジ。

―パリコレにも出展し、世界からも注目株である大本命です。
ここ数年は服そのものというより、紫外線によって変色するなどのギミック的な仕掛けで我々を驚かせて来ましたが、今回はいかがでしたか?―

今回は元号が変わるということで彼等にとっても新しい時代の幕開けという気概を感じる、ものすごいパワフルなコレクションでした。
パワフルでありながらディテールとはなんぞやを問いかけてくるような。
ランウェイにも巨大な3~4mくらいあるようなマネキンがドーンとあったり異次元な世界観なんですけど、アンリアレイジの形への拘り、過去のコレクションに出てくるようなプリズム…。
そういった形への遊びもありつつ、どこかしら日本のファッションの格好良さも再確認出来るようなショーでした。
だから見ていて楽しかったし、単純に買って着たいと思った。
ショーを見た人が自分が着たイメージを出来ること、これが一番大事かも知れませんね。

―いかにショーの完成度が高くても、服は売れなきゃ意味がないのでそのバランス感覚ですよね。
圧倒的に日本はそれが弱い、アートシーンの例えですが美大では絵の書き方は教えるけれど、絵の売り方は教えないと言われるように。

パッと見のインパクトも大切だし、同時に誰が見て分かるものでもないけどフィロソフィーを持ったクリエイションでなくてはならない。―

うん、それで言うとジュンココシノと福島のコラボもそうで、実際ショーにするのは初めてだけどプロジェクトとしては三回目なんですよ。
福島の震災のことを忘れるべきではない、と同時に手を繋いで未来への復興という目標に走っていこうという、改めて綺麗なショーだったんですね。
綺麗でありながらジュンコさんの持つアグレッシブさを見せて頂いたという。
直接見ることは出来なかったんですけどもムービーでもすごかったのがケイスケヨシダ。
あれはもうパワー、ピンヒールでがつがつ歩いて。
聖歌隊からショーが始まって、次から次へと出て来る個性溢れるモデル達とそれに負けないスタイリング。
あのショーはね、「個性ってなんなんだろう?」、元号が変わると共に「自分はどうしたいんだろう?」とまさに社会的に個性を押しつぶされるという、
人と一緒じゃなくてはいけないことへのアンチテーゼ、個性こそ一番美しいものだと伝えるショー。
彼の持っている全てを出し切ったショーでしたよね。

―キッズ達の中でも今期の中でケイスケヨシダの反響が一番すごかったんですよ。
BホールなのにAよりも並んでる量が多かったり。
あのカッティングエッジさ、あの熱量も今のキッズにドンピシャ刺さりそうですよね。―

へー、実際に見たかったな、とにかく輝いてるものがあった。
早く展示会で買いたいと思う、結構私服でも持ってるんですよ。

―ハリーさんはインスタにもよく上げられているように私服もお洒落なんですよね。
お得意のブリトラや活きの良いモードを良く着ていた印象ですが、今日のファッションのポイントはいかがですか?―

これはね、絶対知らないと思う。
リップルって聞いたことあります?

―勉強不足で申し訳ない、国内のドメスティックブランドですか?―

いや、知らなくて当然ですよ、全然コレクションブランドとかじゃないので。
ただ僕は有名無名問わずAmazonFWTで日本の素晴らしいファッションを世界に伝えていきたいので。
NHK World Japanさんで番組もやらせて頂いているしね。
そう、これは国内ドメスで、群馬は桐生発のブランド。
桐生と言えばファブリックの聖地ですよね、これ全て一点ものです。

―ざっくりした素材感と素朴なパッチワークがシンプルながら深みのあるボディに…、
あれ?これ藍染めのような風合いですね。―

そう、まさに藍染め。
リップルというブランドは桐生の丘の一番上にある、本当に行くのが難しい小さい家で夫婦でやっているんだけど。
その家の地下で染めて一階がショップなんだけど、それが一ヶ月に七日間しかオープンしないんです。
わざわざ世界中から欲しいって群馬の山奥まで来るくらい、根強いファンがいるんですけど。
だから日本のファッションの中でも、特に細部への繊細な拘りが僕は好きなんですよね。
僕は普段はこんなルーズな服なんて着なくて、いつもは小儀さんみたいなカッチリしたスタイルが多いんだけどね、リップルは特別。

―英国紳士のハリーさんに揃えて王室御用達オースチンリードでドレスアップして来たのに、逆に浮いちゃったじゃないですか(笑)
でもイギリスをルーツに持つハリーさんだけあって、てっきりポール・スミス、ヴィヴィアン、バーバリーあたりがお好きなのかと。―

芸能界って色んなファッション好きが多いんですけど、やっぱ話題はドメスですよ。
ショーにしてもショーを持たないブランドにしても、被らない魅力が沢山あるんですよね。
来年のオリパラに向けて海外から一般の方も招くわけですけど、実はそういった一般の方も結構案内する機会が多くてね。
その度に浅草、渋谷、秋葉原をはじめとした「トラディショナルなスポットに行きたい」「トラディショナルなフードが食べたい」とか、「電気街でオタクカルチャーが見たい」とか言われることが多いんだけど、
僕はファッションも結構面白いよとお勧めするんですよ。
コレクションとか全く知らない一般レベルの人達に。
で原宿もそうだけどNHKの向かいにあるミッドウエストとか連れてくと、
「なにこれ!めっちゃクールじゃん!」「ジョンローレンスサリバンってなんなの?」って盛り上がって。
そういったところから架け橋みたいな存在としていたいと思う。
だから今も仕事としてとは感じてない、最初から最後まで楽しいし毎回新しい発見があるし。

―ハリーさんにアンバサダーとして求められてるものって、間違いなく一流のファッショニスタであるのに、パブリックイメージ的にはファニーな愛されキャラじゃないですか?芸能界の立ち位置として。
その二面性にこそあると思うんですよね。
それでね、東コレとは言っても知名度や規模感で言ったらやはりパリコレやミラノコレとは遠く及ばない、
まだまだ一部のファッション好きしか知られていない存在なわけですよね、国内の現状は。

僕等ギークやジャーナリストとしてはセレショとか駅ビル、ファストファッションしか知らない一般層に、
この素晴らしいクリエイションが届いて無いってことがすごく悔しくて。

だからハリーさんがその架け橋という役目を担ってくれていることが嬉しいんですよ。―

ありがとうございます。
大前提としてファッションはお金がかかる。
でも二十年前にディオールの、あの黒く細いパンツを履く為に…。

―サンローランから移籍した直後のエディ・スリマンがデザインした。―

そうそう、エディ・スリマンのあのスキニーが出た瞬間に皆が買いまくったじゃないですか。
当時の学生達が死ぬほどバイトして履く「俺のエディ・スリマンのパンツだ!」
みたいなあの流れが、今のファストファッションによって消えていくのは悔しい。
でもね、本当に消えていってはいないと思うんですよ。
今って手っ取り早い時代じゃないですか?ファッションだけでなくタッチ一つでネットで何でも買えたり。
手っ取り早く格好良くなるだけならそっちに行っちゃうかも知れないけど。

―最新コレクションの貴重なトレンドをリサーチした巨大資本が、その上澄みだけをSPAで量産し薄利多売してしまうのが現状です。―

でもその中でも限られたコアなファン達は俺は結構増えている気がして、
それは僕の周りのファンだけかも知れないけれど、本物を愛するファンは間違いなく増えているはず。
俺ね、本当に思うんですけどファッションって生き様なんですよ。
肩書きじゃないですか、自分にとっての。
街を歩きながらファッションの拘りを持っている人を見ると、
それがおじいちゃんでもいいし、若い十代の女の子でもいいし、ついナンパしたくなっちゃう、声かけたくなっちゃうもん。
それがどんな人物で、どんな生き様なのかなあとか。
で、結局ファッションに拘りある人って人間的にも深いです、味わいがあるというか。
芸能界って美男美女とか溢れているかも知れないけど、結局残っていく人って味がある人なんですよ。
それはインテレクション、知的なエレメントも持ちつつ、ちゃんと自分の拘りのある人。
別に高価なコレクションブランドでなくても、その人の色が出ているファッションが出来ている人は、
僕は街を歩いてて増えてきている気はしますけどね。
って言うか、そういう風に見えてきちゃってるのかも知れない、僕が。

―分かります、もう職業病の域と言うかオートフォーカスみたいに自動的に「あの人のファッション熱いな、感度高いな」って人に目が行っちゃうんですよね。
それってもはやストリートフォトグラファーである僕と一緒じゃないですか。
アンバサダー就任以前から、仕事でなく個人的にも服を愛されていたことが充分に伝わったのですが、
初めてファッションを意識した原体験とかってあるんですか?―

でも別に僕は、例えば「3シーズン前のアンリアレイジのコレクションがこうだったよね」とはすぐに出て来ません。
だからそんなにファッションフリークでは無いんだけど、でもファッションの存在の意味はちゃんと分かってます、それはうちの母親からで。
うちの母親は18の時にうちの父に会って、それでパリの美大に行くんですよ。
日本から逃げて、父親と一緒に。

―まるで駆け落ちのような…、大恋愛だったんですね。―

駆け落ちっていうより「私は大学よりこの人と世界に行きたい」って、その時はまだ結婚してないんですけど。
パリに行って奇跡的に美大に受かって、イッセイミヤケさんとかケンゾーさんとかバイト感覚で働いたりするんですけど、
そこで服作りの基礎を学んで、僕のニットとかを作ってくれたんですね。
カスタマイズしたりデザインしたり、本当なんでも自分で作っちゃう人だったんですよ。
そういう母を見ていて服への興味っていうものが生まれたかも知れませんね。

―女性の社会進出すら困難が多かった時代に、本当に自立されたお母様だったんですね。
まさにCOLORSも文字通り十人十色の生き方を提案していて、
同調圧力に縛られて目立ちたくなくなってしまったり、他者の目を気にして本当に好きなものを追及出来ていないという現状への啓蒙なんですがここに集まるキッズ達は…。―

もう個性しかないでしょ!
ミッドウエストに東コレの為に「スナップ撮ってもらいたいから何を着たら撮ってもらえますか?」ってキッズ達が居て。

―それはまた目的と手段が入れ子になっているというか、だいぶ話が変わってきますけどね(苦笑)
でもすごい自己主張。―

さっき並んでてもさ、ああ本当目立ちたいんだなって人達がいるじゃないですか?
でもそれでいいと思うんですよね、「俺はここに居るんだぞ!」みたいなね。

―日本人はそれが無さ過ぎて、うーん、日本人という人種でくくっちゃいけないかも知れないけど、それが強い気がします。
様々なルーツをお持ちのハリーさんだからこそ感じる、日本と海外のファッションシーンの差異を聞かせてもらえますか?―

それは感じますね、でも共に華やかな世界だけど日本の方が人間らしい生々しさは感じるかな。
それは日本の職人の細部への拘りの話とリンクするんですけど。
日本のデザイナーを見てると、例えばパッチワークとかステッチワークとかシルエットに対する拘りであったりとか、
あと素材、これは結構知られている話だけど、海外の一流メゾンも日本のファブリックを使っているじゃないですか。

さっきの桐生とかもすごいいい例なんですけど。
日本で買って、向こうで仕上げて、向こうで売ってるからメイドインイタリーとかになるわけで。

―最高峰のラグジュアリーブランド達が日本の生地を好んでくれるのは、なんだか誇らしいですね。―

でもそれって全然知られてないわけですよ。
そもそもファッションってなんの為にあるかというと人生を楽しむ為で、
それを今もっとも網羅しているブランドがやっぱりダブレットなんですよね。
LVMHアワード獲ったじゃないですか?毎回デザイナーの井野くんと会う度におったまげるようなクリエイションを出してくるわけですよ、もう訳分かんないような(笑)
こないだパリの展示会でもそうだし、日本の展示会でもそうなんだけど、
なんか井野くん居ないと思ったら、後ろからトントンってされたら突然ピエロがいるのよ。
全然動かないから、向き直ってもう一回振り向いたらいきなり動き始めて…。
そんな風にいつでも遊び心を持って楽しませようとする。
元々僕はストリートを着ないんですけど、ダブレットだけは着ちゃうとすごく楽しくなっちゃうんですよね。

―僕は今三十代、裏原世代でまんまストリートを通ってきた世代なので、ただのプリントTが7,000円とか。
それがエディ・スリマンの登場でいきなりオーバーサイズだったヘッズ達がこぞってスキニー履き始めて、
国内ドメスでも感度の高いフェノメノンとかロックスターとか、エレクトロやモードの波が来たんですね。

そこから今のリックオウエンスとか、ストリートとモードのミックスが当たり前の潮流になって行ったんですよね。
当時エイプとかBBCとか着てた真っ只中に、そこで初めて素材やディテールへの拘りとかミニマリズムとかを勉強させてもらったんです。
誰も気付かないような微細な拘りまで追及しているデザイナーの信念が逆にロックだな、格好良いなって。―

ああ、それは海外メゾンに限らず、日本人の「言わない美徳」ってあるじゃないですか?
日本人の主張しない美しさもそれに通じていて、例えば素材感や繊細なディテールなんて触らないと誰も分からない。
でも言わなかったら一見普通の服、そういうクレバーなところは僕は強みだと思いますよ。

―なるほど、個性や自己主張と言えば「主張出来ない日本人が嫌だ、海外のように自分らしさを示したい」と思いがちでしたが、
そしてそのヒントを是非ハリーさんに伺いたかったのですが、確かに。

あくまで後ろ向きな意味でなく、主張しない美徳も日本人の武器なんですね、今日は思わぬ発見をさせてもらいました。―

そう、ファッションにおいては派手な人を真似るのもいいけど、自分に何が似合うのか、自分は何を着たら楽しいのかとか。
非常にシンプルなことなんだけど、まずはそこからビルドアップしていけば徐々にどんなものにも興味を持っていけると思いますよ。

―了―

Photo by 山崎祥弥

 

ハリー杉山
タレント/テイクオフ所属
英国王家の末裔であり、元ニューヨークタイムズ アジア総支局長を父に持つ。
一流メゾンのファッションモデルを務めるほどの恵まれた容姿に加え、
語学が堪能で非常に博識であるが、日本では愛されキャラで幅広い層から支持を得る。

公式Twitter:https://twitter.com/harrysugiyama
公式Instagram:https://www.instagram.com/harrysugiyama
公式Blog:http://lineblog.me/harrysugiyama
所属事務所公式サイト:http://takeoff-mg.com/HarrySugiyama
小儀昌弘
ストリートフォトグラファー/インターネット広告代理店PARADE代表
東京ストリートで十年以上に渡りファッションスナップを撮り続け、多様なアイデンティティーを発信。
ネット、現実を問わず企業と消費者、モデルとブランド、ランウェイとストリートを繋げるハブ的な役割を果たす。