「モデルと保育士の二刀流」hii的パラレルワークの勧め

新調した服に袖を通すときめき、何度も交互に見返したファッション誌と全身鏡。

程度の差はあれど女子ならば誰もが一度は憧れたであろうファッションモデル。

それと同時に、幼少期おそらく最初に意識をしたであろう職業、保育士も負けず劣らず憧れの仕事の一つではないだろうか。

その二つを同時に実現し、また継続し続けている保育士兼業のファッションモデルがいる。

副業感覚の自称モデルはピンキリいれど、世界五大コレクションにも名を連ねる東コレ(正式名称:Amazon Fashion Week Tokyo)を歩ける保育士はちょっといない。

そんな彼女にパラレルワークのコツ、そしてその半生を伺ってみた。

―早速ですが今回のテーマであるモデルと保育の両立、そのルーツをお聞かせ願えますか?―

元々は母が保育園の先生で、子供の頃から園のお手伝いをしたりして身近な存在だったんです。

モデルは小さい時から憧れがあって、
親は当時から何でも認めてくれたから正直に言えたんですよね。

あ、もっと最初は、小さい頃何度かミュージカルに連れてってもらっていて、一度劇団に入ったんですよ。

それは子供の頃の漠然とした好奇心でしかなかったんだけれど、
そこから高校はチアリーディング部に入って、それだけは初めて三年間続いたんですよね。

少し形は違うけど、人前に立って笑ってもらうことが好きだったみたい。

高校卒業に当たって進路を考えた時、もちろん芸の道に行くなんて思ってなかったので、
堅実に「ひとまず保育士かな」と専門で資格を取り、それから五年間働きました。

二十六になって何かもったいないなと、ファッションも好きだったので上京して、本気で服飾の学校も見学したんだけど、デザイナーもスタイリストもピンと来なかったので、
とりあえず原宿のコレクトポイントの古着屋で販売員を始めました。

その時の通勤中にカットモデルに出逢ったんですよね。

美容師さんにスカウトされてショーに誘われたんだけど、ショーの前日にドタキャンされたんですよ!

それで悔しくて絶対にやり遂げてやるっていう意識になって。

その後も何度か声はかかったんだけど少し不信になってて、
でも二人目に出逢った美容師さんは「他にも声をかけていて、必ずモデルに選べると約束は出来ない」と正直に言ってくれたから信じてみようと思ったんですよ。

結果的にショーには出演出来て、その人とはその後も作品を共作したり、結婚式にも呼ばれたり、
今も良好な関係が続いて、今思えばその人の出逢いがきっかけで今があるんだなって思う。

「幾つになってもやりたいことは全部やればいいじゃん!」っていつもポジティブな人だったんですよね、
そこからオーディションや事務所を受けるようになりました。

―お聞きする程に、hiiさんを構成するものって本当、人との出逢いが形作ってきたんだと感じました、保育士にしてもモデルにしても。

紆余曲折を経てそこからモデルのキャリアがスタートしたんですね。―

でも最初は全然上手くいかなくて…。

モデル友達は居ない、事務所やオーディションにも落ちる。

何度も「モデルに向いてない」「オーラが無い」と言われて来ました。

ただのでっかいお姉さんでしたね。

―今のhiiさんからは想像もつきません。

ウォーキングやポージングの技術は熟練が必要だとしても、オーラに関しては元々資質として持っているものだと。―

身長を活かしてショーがやりたかったんだけど、ウォーキングもポージングもダメダメでしたね。

でも写真は前から好きだったから、web、リアル通じて色んなカメラマンと作品撮りしてもらっていたら、
段々と雰囲気とか表現と言われるものが分かって来たんです。

でも自分では良し悪しが分からなかったし、結局は人が評価してくれるものだから、
そんな風に言ってもらえるようになったのは本当、ここ最近ですよ。

―では新人の洗礼を浴びた不遇のデビュー時代から、状況が好転し始めることになったきっかけや、
あるいは徐々にでも「これ行けそう」って感じ始めた兆しってありましたか?―

あります、それははっきりとありますね。

デビューから三年くらいした時、当時同じ立場にある若手モデル達…、本来ならライバルなんだろうけれど、私は仲間だと思っていて、
そんな彼等を、自分以外にもモデルを求められた時には、出し惜しみ無くクライアントさんに紹介してたんですよ。

すると、人集めの力にも目を止めてもらったのか、
デザイナーさん等からファッションショーの企画を持ち掛けられたんです。

それでチームを結成して定期的にイベント開催を続けていたんですが、その時の仲間達にも独立しておいて上手くいかなかったら顔向け出来ないから、
絶対に結果出さなきゃと相当本気出しましたね。

その年に絶対東コレ(Amazon Fashion Week Tokyo)に出ると決めたらミキオサカベに受かり、
文化最大の卒業制作のショーにも出演出来た。

しかもその本番直後にミキオのオーディションだったんですよ、着の身着のまま駆けつけて!

その後ドメスティックブランドのミューズにもなれたので、
その年の決意と行動と結果が間違いなく大きな転機でしたね。

するとチーム解散から遠巻きに私の活動を見ていた袂を分かった仲間達も、
徐々に私のことを認めてくれるようになりました。

―プライドが邪魔をし、いや、もちろんセルフブランディングの為でもあるんでしょうが、
泥臭い面を見せないモデルが多い中、気取りを捨ててがむしゃらな姿勢を見せたことが人の心を打ったのでしょうね。

また自分の為だけじゃなく、モデル仲間やクライアント目線に立ち、
例えご自身が不利になったとしても他のモデルを紹介出来たことが売れた秘訣なのかも知れませんね。

もちろんご本人にはそういった意図は無かったんでしょうが、それは何故ですか?―

うーん、そんなこと考えたことも無かったんだけど…。

なんでだろ、強いて言えば、小さい時からマザーテレサの本を読んでて、自己犠牲心が記憶に残っていたのかな?

母も自分より人の為をいつも考えてる人だったから…。

うーん、わかんないや、すみません。

―モデルとしての努力や実力はもちろんのこと、プラスアルファの付加価値があることがhiiさんの大きな強みだと思うのですが、それは戦略でやっているのとは違う。

ビジネスでもギブ&ギブが基本と言われますが、それを打算的でやったらこうは上手くはいかない。

モデル以上の役割を果たすからこそ、仲間からも企業からもファンからも愛される秘訣なのかも知れませんね。

そんな中、今回のインタビューの主題に立ち返るのですが、
順風満帆の中、何故地元の保育士に戻ったのですか?―

モデルの世界って本業一本で食べていけるのってほんの一握りのトップモデルだけ。

メディアに出ている有名モデルさんですら。

でも生活の為にアパレルを続けるのはなんかしっくり来なかったんですよね。

そんな時、丁度地元の友達から「モデルは続けて構わないから、ちょっとヘルプで入って」とモデル活動を理解してくれた上で誘ってもらったんです。

そしたら、ここまで長く続けるつもりは無かったんだけど、思ったより居心地が良い職場で、子供に癒され、刺激をもらえて、気付けば十年経ってました。

逆に今ではもう、例えもっとモデルで売れたとしても保育士は辞めたくないですね。

保育士が出来ているからモデルも続けられる、どちらが欠けても駄目。

―それだけhiiさんにとって保育士は天職だったんですね。

それにしても保育業界は心身共に苦労が絶えず、離職率も高いと聞きます。―

毎日がイレギュラーの連続ですね、寝ない子は居る、所かまわずおしっこしちゃう、
飽きさせないようアドリブで園児をあやさなきゃいけないこともしょっちゅう。

でもモデルの世界も思わぬハプニングが起こりうるので、動じなくはなりましたね。

あとはショーのプロデュース等をしているとどうしてもピリピリと気がせってしまうこともあるけれど、
心を豊かにしてもらってるから頑張れるんです。

子供達の自由なイマジネーションから着想を得てモデルの表現力にも繋がっているし、
収入だけじゃなく、それ以上のものを間違いなくもらってますね。

―恥ずかしながらお話を聞くまでは、副業の時間もモデルの成功の為に少しでも近いことやっていた方が良いのではないか、限られた時間がもったいなくはないのか、と思ってしまっていました。

そうではなく兼業は全然悪いことではなく、むしろ相乗効果になることもままあるんですね。

最後になりますが読者にhiiさんなりのアドバイスを頂けますか?―

アドバイス…、アドバイスかー、人に言えたことなんて無いよー。

―会ったことの無いモニターの向こうの相手はイメージしづらいですよね、
では「自分だったらこう頑張る」でも構いませんから!―

そうですねー、自分だったら大きな夢を持つにこしたことはないんだけど、
それに対して具体的に何をすべきかを考えていますね、いつも。

夢を語るだけじゃなく、どんなことからでもコツコツと取り組むこと。
例えば装苑に出たいんですが、装苑に出たい人が写真に撮られ慣れてなかったら論外じゃないですか?

海外のショーに出たいなら、毎週くらいは必ずウォーキングのレッスンをしなきゃ。

でも義務感だけで嫌いになっちゃわないように…、英語を覚える為に教科書じゃなく歌いながら覚えるみたいに。

仕事も夢も楽しくないと!って思うんです。

ー了ー

 

文字通り一目で見る者の心を奪い、感情を揺さぶりかけてくるモデルとしてのオーラと対照的に、
向き合う者に一切の圧を与えない、朗らかな空気感を共有してくれるhiiさんの佇まいの落差に何より驚かされた。

穏やかでありながらも、時折真理をつくような的確なセンテンスが出てくるのも、彼女の感性と、生半可でないその足跡、そして日々、言語ギャップを埋め意思の疎通を図ることが日常となっている保育士というキャリアの賜物だろう。

保育士とモデル、穏やかな人懐っこさと鬼気迫る情熱、この二面性が彼女を強く生きさせているのかも知れない。

 

hii公式サイト http://hii-hii.com/
エージェンシーサイト http://www.bellona-model.net/model_women/5781