―簡単な略歴と、デザイナーに至った経緯を聞かせてもらえますか?
「最初はアーティストになりたいという思いのほうが強くて、デザイナーになるとは思ってなかったんです。
とにかく絵を書くのが好きで、染織もやっていて。
最初はその合間程度に服も好きだから作ったりしてオンラインで売っていました。
そうしているうちにホップアップストアで売ってみたら反響が良くて。
それでコレクションを発表するようになって本格的になったんです」
―そのステップの中で、どのタイミングで個人から企業が介在し始めたんですか?
当初、オンラインのスタートはタイ?日本?
「最初は日本のtamariba(タイのアーティストグッズやデザイナーの商品を取り扱いしているオンラインショップ)で売り始めました。
コレクションは確か2011年頃にスタートしたはず。
神戸の友達が、Spacemoth ていうセレクトショップのアニバーサリーイベントのショーに一緒に出ようと誘ってくれて、そこで初めて発表しました。
その時はリメイクラインもやっていたし、VL一本じゃなかった。
2014年から名前が短か過ぎるからVL by VEEに改名したんです」
―ああ、海外のブランドさんだから英語の検索結果が膨大だからか。
アルファベット2文字だとなおさらですよね。
「VLって特に意味のある言葉でも、ブランド名でもなく、ただの私の名前の頭文字だったんです。
でも私のタイ名ってものすごく長くてオンラインショップの枠に入力しきれなかったから、イニシャル表記にしただけで(笑)
そこで、洋服だけじゃなく、バッグや人形も作って売っていたのだけれど、服が一番売れるようになったのでVLのタグを作り始めました」
―ブランド名についてもお聞きしたかったので、1つのクエスチョンで2つの謎が解けて良かったです。
続いて、ミックスブラッドであることはVEEさんの大きなアイデンティティであると思いますが、その事実はクリエイションに何らかの影響を及ぼしましたか?
「大分(影響)してると思います。
タイで生まれてすぐ東京に移住して7歳まで育って、その後タイに移住して、また日本の大学に留学し、今はタイに住んでいるんですが。
日本に住んでる時も名前が長いから、私は見ての通り結構日本人顔なのにタイ人に見られ、タイに行っても最初はタイ語が喋れなかったから日本人に見られ、何処に行ってもその国の人に見られなかった。
日本人から見て『タイっぽい服』と言われても、タイに行ったら『これは日本的だ』と言われたり。
タイは明るい色が好きな人が多いんですが、私はヴィヴィットも好きだし、日本的なくすんだ色も好き。
自由な色使いが出来ると思います。
ただそれはハーフというよりペインティングが好きだから、色彩感覚が細やかなだけかもしれませんけど。
洋服のシルエットはタイ人が好む身体のラインが出るタイトなのも好きだし、レイヤードを楽しむ日本人的なのも好きです。
2つの感覚があるから、スタイリングも楽しめます」
―幼少期における居場所の無さのような葛藤は僕には計り知れないものだと思いますが、現在におけるどちらの国でも新しい感覚と認識されるのは良い差別化になる力強い武器になっていますよね。
あと着こなしやディティールより先に、まず色使いの話が出たことでやはり前提にアーティストなんだなと思いました。
もう一つ気になったのが、コレクションテーマが、バカンス、スカイピクニック、スペースパーティーと底抜けに明るく、シンプルであると言うこと。
日本のブランドはコンセプトに大層なフィロソフィーがある振りをする。
服で勝負せずにテキストをよく多様することが多いんです。
「そうなんですか?
私は深く考えず、ぱっと言葉でその時に自分が伝えたいことが伝わればいいなと思ったんです。
VLのコンセプトである“リラックスチャーミング”も車の中で思い浮かんだくらいで(笑)」
―めちゃくちゃピュアですよね(笑)
「誰でも自然にファッションを楽しめたらいいなと思いました。
おしゃれすることは自分のための一つのエンタテインメントだと思うので、楽しいことをやる時は、力が入りすぎたり、気取ったり、頑張りすぎないほうがいいと思いました。
なんでも自然にできることが一番いいと思っているので、おしゃれも自然に余裕に。
だからリラックスっていうのは、シルエットがリラックスというより、肩の力の抜けた、フィーリングの方の心のリラックスです」
―見られることばかり、人の評価ばかりを意識したファッションが多い中、本当に着る者が楽しめる服を作ろうとしていることが伝わってきます。
それでは日本で好きなブランドはありますか?
「ヨウジヤマモトやイッセイミヤケは若い頃から見て憧れていました。でもコレクションを追いかけたりはしていなかったです。
服だけに興味あるんじゃなくて、良いクリエイションを見ると自分のインスピレーションになります。
アート作品や音楽も好きだし、ハッピーだったり癒されたりワクワクするものであればそれはファッションに限らないですね」
―具体的にファッション以外で日本の好きなものはありますか?
例えばカルチャーとか。
「色んなことに興味はありますが、特にハマることはないんです。
小さい頃からハーフだから、何処のカルチャーにも属さなかった。
入るんじゃなくて外から見てる感じ。
コミュニティの一員になることなくいつも客観的だったから、何が好きとか特定の物は無かったんです。
あ、でも食べることは好きだし、日本の茶碗と箸という独特の文化、ああやって食べるスタイルも好きです。
日本食も好きで、納豆とか山かけも好き。
生牡蠣大好きです!」
―タイって年中暖かそうで湿度もありそうなんで、生物の料理ってあまりないんでしたっけ?
「いや、そんなことないですよ。
生の料理はもちろんあるし、オイスターバーとかもいっぱいあります」
―そうなんですね。
では次は日本からも少し離れて、国を問わず、VEEさんの好きなこと、嫌いなことが聞きたい。
「好きなことは絵を描くこと。
集中して一つのことをやりこなす時間、静かに絵を書いてる時間が一番好きです。
絵を書いている時が一番幸せそうな顔をしていると、パートナーにも言われたことがあります。
小学生の時に徹夜して絵を描いてたこともあるくらい。コンクールに出す時とか」
―と言うことは学校も美大や芸術関連?
「神戸芸術工科大学のテキスタイルを学んでました。
アーティストになるのは父が食べていけないと言うので、最も絵に近い商業的なものがテキスタイルだと思いました。
でも学生時代は商品というより、自由に作品作りをしてました。
嫌いなことはダークなエネルギーを出している場所、人間、事、瞬間とか」
―普通は誰もが嫌いですよね?(笑)
「ホラーとかお化けのドキュメンタリーとかは見れますが、悪意が嫌い。
お化けも良い幽霊や、良いエネルギーを持っている人もいる。
悪い人は死んでもまだ悪い幽霊と言うか。
・・・誰もが嫌いですよね(笑)
あっ、思い出した!ゴキブリが嫌い」
―それも一般の人の大半が嫌いなのでは・・・?(笑)
「私、動物は大体好きだし、蛇も好きだけど、まだゴキブリまでは悟ってないですね。
でも小さい時は何でも触ってましたよね、虫捕るのすごい好きだった。
何で大人になると触れなくなるんだろう?
何でだろうねー」
―最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
「いつも買ってくれてありがとうございます。
なんかすごい嬉しいのは、買ってくれた人が着て楽しいと思ってくれること。
もちろんそう思って作ってはいるんですが、本当に『面白い、楽しい、ハッピーになれる』と言っていただいてます。
例えば、シックで大人っぽいシルエットの服でも楽しいとか元気になれると言ってくれるから、(想いが)伝わっているのが不思議だと思いました。
私は、(締め切りが迫ってても)作ってて本当にイライラとかしないんです。
忙しくても嫌々作ってないから、良いエネルギーを込めてる。
服作りってエゴもあるけど、着る人のことを本当に考えてる。
例えば日本の平均身長とか体型とか肌の色とかのことも」
―タイ人女性との違いってやっぱりありますか?
「タイ人の方が少しだけ全体的に大きいですね。
身長は2センチ、足は1センチ位。
肌色もタイ人の方が濃いですし」
―肉感的でボディコンシャスなスタイルが多いですよね?
「はい、そういう服を好む人がタイは多いし、日本人は保守的ですね」
―むしろ身体のラインをあえて隠したいくらいですもんね。
「それもすっきりする部分と隠す部分のバランスが良ければいいと思ってます。
(来期の最新ルックを見ながら)日本人は短過ぎるスカートが苦手だからロングスカートを作ったけれど、こうやってスリットを入れてミニスカートと重ねたり、秋冬なら下にタイツも履くから露出も調節出来る。
後ろの着丈を長く取っているからお尻も気にならないし。
ロングでタイトなら足も長く見えますし!」
―解説付きでルックを見ると、一つ一つに意図が散りばめられていることが分かってまたすごく面白いですね。
帰国前日というタイトなスケジュールの中、本日は誠にありがとうございました。