ナレーターとして活動しつつ、エッジの効いたファッションやSNS投稿、心象心理を描き出す生々しい詩世界でマルチに発信し続ける髙橋あやなさん。
今回は、その中でも、詩やデザインはもちろんのこと、印刷・製本までを彼女ひとりで手がけたセルフプロデュースのZINE(少部数、個人単位の発行物)にスポットを当ててお話を伺いました。
― ショッキングなタイトルである『マニキュアを塗った夜は自慰行為ができない』の意味とは?
元々、本誌に掲載した『秘密の発見』という詩から抜粋したものなんです。
当初から店頭に並べることを想定していたので、表紙の画とタイトルでインパクトを残したい、まず手に取ってもらいたいという意図はありました。
― ご自身のマニキュアを実際にZINEに塗ったり、日記風に書かれた詩の一部を手書きしたりと、随所にご自身を投影されているような仕掛けが見受けられました。
タイトルもご自身のことだと読者が受け取ってもいいのでしょうか?
全て自分から出たものだから、全部自分のことだと思ってもらって構わないです。
― 『秘密の発見』では、「生理の夜も、自慰行為はできる。生理の夜は、あなたを拒むことができる。生理が来なければ、結婚できる」と、“生理”という女性特有の身体現象について執拗なまでに書き連ねています。
肉体的な女性性がもたらす憂鬱や、逆手に取った女のしたたかさ、相反した少女性みたいな部分が書きたかったんですけど…。
極限まで2人が近づいても、性差がある以上、というか個体が異なる以上、分かり合うことは出来ないという無力感はあります。
違うのは当たり前ですから、絶望しているけど悲観してはいない、みたいなバランスです。
人間関係全般に対してもそうですけど、特に恋愛においては強いですね。
― ほぼ全編に渡り、そういったネガティブな感情を叩きつけるような作品群ですが、普段の髙橋さんは全くの真逆の印象です。
明るく、社交的で、行動的…、そこに闇感はゼロです。
どちらにも嘘は無いというのが正直な気持ちです、無理しているわけでもないし。
詩の表現も本心だけれど、人と関わることも好きなんです。
― 二面性というよりは表裏一体、合わせて髙橋あやなさんという人間なんですね。
ここに書かれている(学生時代のコンプレックスや対人恐怖)、過去に投げかけられた言葉や自己否定、トラウマ…。
今沢山のファンや関係者に囲まれても尚、深く残っているということでしょうか?
あ、これは一番苦しんでいた時期に書き溜めていたもので、今もまったく同じ感情・価値観を持っている訳ではないんです。
少しずつ記憶や憤り、傷が薄らいでいるのは事実で、こうやって形にしてみて「もう同じものは書けない、だからこそ当時の思いを書き残していて良かったな」と思いました。
実は、このZINEは完成したら燃やしたかったんです、供養する意味を込めて。
― 詩集を作ろうという心境の変化や、発売という形で広く世に出そうと思ったのは何故だったんでしょう?
自分の感情は、私しか知らないものです。
いつか私が死ぬとき、それは同時に“頭の中だけにある作品”の死でもあります。
誰にも知られずあの時の感情が消えていくのは悔しかった。
ただし、形にするなら、たとえ無料だとしても読み手の「時間」という財産を奪うことになります。
だからこそ、一定水準以上のクオリティは確保したいと思いました。
ZINEという形式は、定義も幅広く自由であるがゆえ、印刷して「ZINEです」と言えば一応はZINEの体裁を取れてしまう。
今回はそれでは駄目だと思ったんです。
自分は作品作りに対して乱暴なところがあるので怖かったんですよね。
ZINEのワークショップに通い、読者を意識した情報量のチューニングや、マーケティングの知恵も含めて学びました。
ワークショップ後は、そのまま店舗で販売していただいています。
― ナレーターという職業に制約が多く、真逆のベクトルであるZINEやファッション、SNS発信に自己表現を求めたのですか?
いえ、それはまったくありません。
むしろナレーションは自由な自己表現の場だなと捉えていますし、だからこそ憧れ続けています。
当初はナレーションの活動とは切り離して考えていて…変なこと言いますけど、去年「死ぬかもしれない」と思ったんです。
2017年に、ミサイルが日本を横断したじゃないですか。
あとは人口知能が将棋でプロ棋士に勝った。
絵空事だったSFが急に現実的に感じられて「いつ世界の終わりが来てもおかしくない」と死を強く意識したんです。
それからですね、行動的になれたのは。
単純にやりたいことを全部やっているだけなんですよ、高尚な理由なんてない。
― ナレーターの他、モデル、作詞作曲、詩作、デザイン・ディレクション等、マルチに活動の幅を広げています。
むしろマルチプレーヤーだと評されることの方が危機感を覚えます。本質が薄まると言うか、器用貧乏で終わっちゃうんじゃないかと。
結局何をやっているのか分からない人になるより、ナレーション一本で結果を残そう、その後でやりたいことをやればいいんだと思っていた時期もあったのですが、それこそいつ死ぬか分からないし、内にこもっていた青春時代に失った時間も取り戻したいし、死ぬ前にやれることは全部やろうと。
― 「結局何やってる人なの?」と取られる可能性もある反面、動き続けることで結果として多くの機会と繋がり、それらの点が線となって今の髙橋さんが形作られているように感じます。
スタイルや軸は一切ブレていないので、どこか一貫性がありバラバラの印象は受けませんし、何よりご本人が一番軸がブレていないので。
そんな髙橋さんですが、今後の展開は?
ZINE制作に関しては単発のつもりでしたが、次の着想を得たので形にしたいです。
最近強く感じるのが、よくある言葉ですけど「明日は今日より長く生きられない」ということ。そこを軸に展開したいです。
発売前は、こんな一個人の感情の吐き出しなんて1冊でも売れたら奇跡だろうくらいの心構えでいたのですが、初版・第2版と早いペースで完売し、メディアにも取り上げていただくことができて少し自信になりました。
(同ZINEが、2018年5月25日(金)テレビ朝日『タモリ倶楽部』「MOUNT ZINEで自由すぎる出版物を読破!?」で紹介され、髙橋さんも登場します。※インタビュー時は放送前)
ZINE以外のことで言えば、自分で言うのは恥ずかしいんですけど、一つのポップアイコンに、カルチャーを提案出来る人になりたいです。
ナレーターとしても売れて仕事を見せていきたいし、服や文章、自分に出来ることは全て発信して、ひとつでも誰かに何か伝わるものがあればいいなと思います。
学生時代は自信が無くて悩んで落ち込んだけれど、やっと毎日が楽しいので、ゆくゆくはいま同じように悩んでいるティーンの女の子達にひとつでも勇気を与えられる存在になりたいです。(了)
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